太極拳のホームページ  Tai chi chuan
太極拳ラボ
ラボ ラボラトリー[laboratory]の略。研究所。実験室。また、製作室。

王宗岳の太極拳論に、四両撥千斤【四両(150g)の小さい力で、千斤(キン(600kg)の大きな力を弾き飛ばす】の表現がある。これは、小さい者が大きな者に勝つ、太極拳の拳理としての重要な部分である。
それにもかかわらず、この技術を具体的に書いた書物は少なく、本気で研究している人もあまり居ません。
ここでは、他であまり触れられない「
四両撥千斤」についての考察を、古典や新説にこだわらず、また、私の経験を踏まえてまとめてみました。

はじめに
下記にまとめた内容は、この手の稽古をしていない人にはチンプンカンプンで、全く理解できない事だと思います。どの本にも書いてありません。
だけど、本気でやっている人や、良いアンテナを持っている人には分かってもらえると思います。
疑問を持ちながら稽古している友のために書いてます。

 
基本から
本気で押さえてくる相手を軽い力でひょいと持ち上げる。まさに「四両撥千斤」ですが、そんな稽古方法が日本の武道である合気上げに存在します。
合気上げだけでも、疑問を持ってしつこくやっていると、いろいろな事が分かってきます。
逆に、技がかかっていないのに、自分で受け身をとって倒れている・・・。そういう事にまるで疑問を持たない人からは、何の進歩も生まれてきません。

私は良い友に恵まれて、ぶつかる稽古から入り如何にぶつからない方法があるか研究してきました。
それは、相手の感想を素直に聞いて、考えて、改良してと繰り返しやって分かってきたことでした。
(やってみると、この過程は意外と楽しい経験でした。)
この中から分かってきたのは、入口は色々あり、一人一人のやり方が違うと言う事でした。
ここではその違いをタイプ別にして、簡単にまとめてみました。タイプは一人一つというものではなく、割合が各々違います。
稽古時の参考にして下さい。
(注:合気上げとは、正座状態で膝の上に手を置き、もう一人が同じく正座の姿勢で腕を上から押さえる。押さえられた手を自由に上げて相手の重心を崩す。合気の基本稽古。)

  
◇タイプ別性質
タイプ キーワード 性 質
流れる・リラックス リラックスして気を流します。流れている川に船を浮かべると動いていくように、自然と流れます。
味覚に例えると、気は非常に薄味で、分かる人にはよく分かるが分からない人には分からないものです。
本当に分かる人は流れが見えるし、色までわかります。
イメージ力・具現化・意念 イメージ・意識を使って体を動かします。
例として、落ちている500円を拾うイメージで実際にな無い500円を拾うように手を伸ばしたり、又は後ろから誰かに押してもらうイメージで歩くなどがあります。
意識とは、手を見れば手に意識が行き、後ろから呼ばれれば後ろに意識が行きます。日常でも五感を使い、このような意識の操作は誰もが勝手に行っていることです。
意識の使い方に慣れてくると、稽古相手がどこに意識を出しているか具体的に分かってきます。意識は物みたいに具現化する性質があります。
操作・整える 「身」のタイプの人は、スポーツ体とは違います。部分的に細かな身体操作ができる体です。
身体操作は体のパーツ(腕と胴体など)を連動させずに切って、各部位に強弱、左右、上下、内外と別々に動かします。
肩に力を入れない、蹴って動かない、脳の指令で体を動かさないなど繊細な操作が求められます。

◇特質と弱点
タイプ 特 質 弱 点
自分でうまくいく「場」にはまると、技は何でもかかります。 分かる人にははっきりしているので気の技はかかりません。
「気」を神秘化している人には、気の技がよくかかります。しかし、「気」を信じていない人には、あまりかかりません。
何にでも例外はあります。頭では信じていなくてもかかる人も居るみたいです。体質かもしれません。
技をかける時は集中が必要です。自然と熱中してしまう時もあれば、疲れてくると集中も途切れてきます。
「意」タイプの人に、意で正面から技をかけようとすると、お互い手の内が分かっているので逃げてしまいかかりません。
同じ「意」タイプで意識の使い方が上手な人は、下手な人に良く技をかけることができます。相手の意識の塊がどこにあるのか分かるので、それを利用されるからです。
気持で負けている人にも良くかかります。逃げ腰の人には逆に技がかかりにくかったりします。
「気」や「意」が全く分からないと思える人も「身」のタイプにはいます。
しかし、「身」だけでも「気」や「意」の持つ内容が出来てしまうので、知らなくても成り立ってしまいます。
「身」タイプの人は、体の軸をずらされると急に弱くなります。強い力では軸はずれず、弱い力の方が効果的場合もあります。
強い力で崩そうとすると、逆に腰が据わってしっかりしてしまう場合もあるので、それを避けるには感じが変わらないように変化しないように動きます。
顔に触れられると、身体スイッチがオフ状態になったりします。
※「気」と「意」は、慣れてくると分かりやすくなります。それ故に、相手に技がかからなくなります。
 「良い同調」と「悪い同調」というのもあって、悪い同調は相手にすべて分かってしまうので動きを封じられてしまいます。良い同調は一見別々に見えるので相手には分からずに技がかかります。
 良い同調(シンクロ)を生むためには、更なるレベルアップが必要となります。

◇更なるレベルアップ
タイプ レベルアップ 性 質
⇒内力 エネルギー
地盤と地盤がぶつかって地震が起こる前の動かない状態の様に、動かなくても強いエネルギーは発生している、そんな状態です。
⇒絶・断 意識をしない
意識をしないで動かれると対応できません。逆に脳の指令で体を動かすと相手になぜか知られてしまいます。

「意識をしない」は難しいので、意識をあえて使った応用方法を書きます。
応用事例(1)
二人で稽古している時に、別の第3者に説明しながら技をするとうまくいきます。これは、相手に意識を出さず、別の第3者に意識を出しているからです。
相手に意識が届くと、ぶつかりが生じ、感覚がそれを拾い、ぶつかっていると脳に命令が行くので自分でブレーキがかかります。
応用事例(2)

体と意識を分離して、意識を背後など外に出して、「碧い巨人」をイメージで形作る。その巨人に手を添えてもらって自分の体を動かしてもらうようにします。自力は不要。
通常の力は、この方法を邪魔するブレーキにしかなりません。
⇒切 浮身と同圧
「身」よりも更に絶妙な動きです。簡単にやるなら、重心を左右の足にかけずに歩き続けるのも「浮身」の一つの方法です。
相手と自分ともぶつからないし、自分の中で自分の力ともぶつかりません。筋肉を締めない、ふんばらない、ためを作らない。そして、息を止めない状態です。
相手にとっても変化が見えないのは、触れている圧が変わらない「同圧」だからです。

結局何をしたいかというと、普通の力だと相手の反射運動が起こり、こちらの力に相手の身体が反応して筋肉が動いてしまいます。それをさせないようにするのが「浮身」で、ぶつかりを作らないようにして、「同圧」で相手の触覚に触れなければ反応が起きないので、そういう状態を作りたいということです。
この状態ができると、相手の力とぶつかりがなく、相手はコロリと倒れます。
※これらが大胆かつ繊細に一致すると、技ではなく、相手をコロリと転ばせる事ができます。それが本当に一致しているかどうかを判断する目安となります。


△関連性について
「意」と「身」は関連が強い。
稽古の中で技を受ける側の時、受け慣れてくると意識の塊を勝手に外に出て身体のバランスをとるので、倒れにくくなります。
身体が疲れると、意識の集中力が切れるのも「身」と「意」の関連性の一例です。
「気」は身体を癒す効果があります。
身体が元気になると気も出てきます。
「気」と「意」は関連性が強い。
「意」を用いると「気」が流れます。


キー
(簡単な方法について)
入口の段階として技を成立させるために、簡単にやる方法をまとめてみました。(しかし残念ながら、同じことをやっている自分より格上の人には技はかかりません。)
これが出来ると入口で鍵があるようなものなので「キー」としました。
入門者が理由も分からずとも何とかできる実用的な方法を考えたので参考にして下さい。
@ ◆動きながらやる。
相手にがっちりとつかまれて停止した状態から技を始めるのは非常に難しい状況です。
動きながらだと比較的簡単にできます。たとえば、つかまれた瞬間に技をかける。立っていたら、歩きながら手を動かしかける。(注:けっして技をかける瞬間に足を止めない。人は自然に止まって手を動かそうとします。)

座っていたら、立ちあがりながら又は、座りながら技をかける。(注:動く大きさに気をとられるのではなく、動いている最中なのかどうかに注意してください。)
例えて言えば、船に飛び乗ってしばらくは船は揺れれいると思いますが、その揺れている間に技をかけるのです。腕を掴まれても3秒くらいはこの揺れがあるので、動かしやすいです。
 
A ◆すぐにやる。(身体同士で会話をしない)
頭ではとは別に、身体は相手の身体と交信をしています。これは感覚には上がってこないので普通は分かりません。納得できないと思います。なぜなら感覚にないからです。
相手の身体と自分の身体との会話が多いと、技は上手くいきません。なぜなら、こちらがやろうとしていることを、相手の身体は全て分かっているので技がかからないのです。
簡単にやる方法として、相手に触れている時間を短くするために、「すぐにやる」ことです。

また、頭の指令を出してから身体を動かすのではなく、頭の指定無しに身体が動くようにするとうまくいきます。
身体同士の会話は、脳からの指令を言葉ではない言葉で会話しているみたいです。
B ◆相手にしない。(身体同士で会話をしない)
相手の身体の会話を無視する、受け取らないなどで結局こちらが反応しなくすると、技がかけやすい身体になります。。
たとえば生活の中で、赤ちゃんの泣き声が気にならないなど、気にしない事がポイントです。しかし、気になる人には気になるし、時と場所が違えば同じ人でも気になってくると思います。
ただし、これは意外と難度が高く禅などもこれと似た効果を出すために行うのだと思います。

合気上げの参考として言うと、合気上げの受けをやっている時は、「相手の身体と会話をしない」を意外と上手くやっています。これをヒントにして下さい。※(考察へ)
C ◆一人でやる。(同化しない)
相手につかまれて時間が経つと、自分にとって相手との悪い一体化が生まれ技をかけ難くなります。これは悪い同一化です。
腕をつかまれた時に、つかまれた感覚なのか、つかませた感覚なのかによっても技は違ってきます。つかませた感覚だと、釣りで魚を釣るように上手くいきます。
相手と同一化してバランスを取らない。あくまで一人で居る時と同じで、自分中心のバランスが必要です。
D ◆まっすぐな軸をつくる。(同化しない)
ジャンプして、まっすぐに着地した直後は、技がかけやすい身体となります。
自分の軸・中心を相手がいても寄り掛かったり、迎えに行ったりせずに、自分の中心に保ち続ける事が相手の身体の会話を無視することにもつながっている様です。
心理的にも相手が居るのと居ないのでは違いますが、体の軸も微妙に変化してしまします。
E ◆同圧でやる。
立っている状態からゆっくりと座る途中の辛いポイント、又は座っている状態からゆっくりと立ち上がる途中の辛いポイントで技をかけるとうまくいきます。
体内の圧が高い状態で一定になっている同圧の状態だからです。
逆に圧が変わると、感触として現れ、相手はそれを察知しこちらの動きを止めてしまいます。
触れた感触で、圧が強くなったり弱くなったりするのは相手にとってすごい情報になります。
全身同圧でも良いのですが、胴体の同圧が一番大事で、関節は遊びの無い状態が必要です。
触れている場所の感覚を変化させない事がが必要ですが、胴体が良い同圧なら逆に触れてい場所は変化せず、相手をぶるからずを動かすことが出来ます。
注意: 上記のことは、色々な方法を書いていますが、最終的には同じ状態を示しています。
Aの場合は感覚はウソをつくのでだまされないようにして下さい。
Cの場合も一人でやってるつもりが、実際は相手の影響をすごく受けている事があり、感覚ではつかみ難いものです。
アドバイス:
(集中と解放について)
意を使うと集中してしまいます。技を使う上で、集中が良い事だと思っていると思いますが、そうではありません。相手がいる場合、意識すると身体を動かす前にその方向が、相手の潜在意識の中で分かってしまします。よって、意識しない方が相手には分からないのです。
集中の逆は「解放」です。身体でいうと胸を開き、足や腹などにふんばった所を作らない状態です。固めていないので力の出処が相手には分からないし、出だしも分かりません。逆に今まで体験した事のない本当の集中力がうまれます。
最後に
この動きを身につけると、ぶつかりがなく相手を浮かす効果があります。
方法というか頭の切り替えみたいな稽古です。
自分の考え方一つで世界は変わってきます。物の見方も変化してきます。近くに有って分からないものかもしれません。

脳の指令無しに体を動かすとは、かゆい処に勝手に手が届くようものです。脳からの指令はなぜか相手の潜在意識の中でバレてしまっています。
どうやって潜在意識を認識するか又、赤ちゃんの時から自然に身に付けた「からだのくせ」を自分で認識できる事が理解のポイントになってきます。当たり前すぎて自分の体の連動パターンは分かりにくいものです。

ここまで話を進めてきましたが、言語化できないこの方法は一人に一つでありながら、お互いが似通っています。残念ながら、他人の方法は完璧に真似できません。
しかし、個の持つ面白さと不思議さを追求し、楽しく、自分なりの方法を研究してみてください。
【分かるためのヒント】 @納得できる事 A気づく事 B精進できる事 C心を統一できる事 D理解力 

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